症例設定
【患者】
- 16歳女性.155cm,45kg.
【現病歴】
- 友人と食事後に歩道を歩行中,軽自動車との接触事故により救急搬送された.CT検査で肝臓周囲・脾臓周囲に出血,右血気胸(少量.現状ではドレーン挿入適応なし),両下腿開放骨折が確認され,緊急開腹手術および両下肢創外固定が予定された(同時に行う).
【既往歴】
- 特記事項なし
【服用中薬剤】
- なし
【主な検査所見・バイタルサインなど】
バイタルサイン
- 意識:JCS Ⅰ-3
- 血圧:80/50 mmHg
- 心拍数:130回/分
- 呼吸数:28回/分
- SpO₂:94%(酸素マスク5L/分)
- 体温:35.8℃
血液検査
- Hb:9.2 g/dL, Plt:15.5×10⁴/μL
- PT-INR:1.15, APTT:32秒, Fibrinogen:180 mg/dL, D-dimer:15.6 μg/mL
- pH:7.32, BE:-5.0 mmol/L, Lac:4.5 mmol/L
- Na:138 mEq/L, K:3.8 mEq/L, Cl:102 mEq/L
- BUN:18 mg/dL, Cr:0.9 mg/dL
- AST:45 IU/L, ALT:38 IU/L
- CK:320 IU/L
- 血液型:B型 Rh(+)
画像所見:
- 胸部X線: 右第2-4肋骨骨折,右血気胸(少量)
- FAST: モリソン窩と脾臓周囲に液体貯留
- 腹部CT: 肝臓周囲と脾臓周囲に出血,明らかな血管外漏出は認めない,腸管損傷の所見なし
- 下肢X線/CT: 右大腿骨開放骨折,左脛骨骨折
身体所見:
- 右胸部に痛みと陥没あり,呼吸音は右で減弱
- 腹部は膨満,全体に圧痛あり,反跳痛と筋性防御を認める
- 両下肢に変形と疼痛あり,右大腿に開放創あり,末梢動脈拍動と末梢神経機能は左右とも保たれている
【初期状況】
- 救急医から麻酔科に緊急連絡があり,出血性ショックの診断で緊急開腹手術が決定された
- 現在,酸素マスク5L/分投与中で,末梢静脈ルート22Gが1本確保されている
- 胸部痛と腹部痛を訴え,苦悶様表情.
- 両親が到着し,宗教的理由から輸血拒否を主張している状況.娘の輸血に対しては拒否している.本人は熱心な信者ではないものの,普段は家庭の事情で両親に方針に従っているが,生命の危険がある場合の輸血は希望している.
- 検査データ等は上記の通り.
Q1. 本症例の術前評価において,確認すべきポイント(輸血拒否に関するもの以外)を挙げてください.
- 全身状態とショックの評価
- 血行動態(BP 80/50 mmHg, HR 130/min)はショックを示唆
- 乳酸値 4.5 mmol/L,BE -5.0は組織灌流障害を示唆.
- 体温35.8℃の軽度低体温.避けるべき状態.
- 今後凝固障害が出現すると,上記所見から生命の危機が高まります.
- 気道・呼吸評価
- Mallampati分類,開口度,頸椎安定性の評価.顔面外傷の有無,歯牙損傷の有無.
- 頸椎損傷の有無.四肢の運動障害やしびれの有無を確認.
- 右血気胸の程度と呼吸障害の評価
- CTで胃内容物の確認
- 損傷評価と出血量・程度の推定
- 肝損傷(日本外傷学会分類IIIa型)からの活動性出血
- 四肢骨折からの出血
- 推定出血量と循環血液量の評価
- 心エコーで心タンポナーデを否定しておく.
- 輸血準備に関して
- 輸血部や検査部に在庫確認.
- 血液型,交差適合試験
- その他
- 凝固能の評価(TEG/ROTEMがあれば積極的に使用)
- 他の隠れた外傷の確認(骨盤骨折,脊髄損傷,左の気胸など)
ここから先は「オンラインメンバーシップ限定」です. ↓の「新規ユーザー登録」から登録申請を行ってください.
コメント