📘【想定問題】緊急帝王切開

症例設定

【患者】

  • 34歳女性.158cm,68kg(非妊娠時50kg)

【現病歴】

  • 前回の妊娠では妊娠高血圧症候群のため妊娠38週で計画的帝王切開術が施行された.今回の妊娠経過は順調であったが,妊娠32週頃から血圧上昇を認め,妊娠高血圧症候群と診断され降圧薬内服を開始した.
  • 2日前から頭痛,右上腹部痛,全身倦怠感,悪心を認めていたが我慢していた.本日朝より症状が増悪し,嘔吐も出現したため産科外来を受診した.血圧184/110mmHg,尿蛋白(3+),血液検査でHb 10.5g/dL,血小板 55,000/μL,AST 1200 IU/L,ALT 950 IU/L,LDH 1500 IU/L,総ビリルビン 4.8mg/dL(間接ビリルビン 3.2mg/dL)を認め,産科ICUに緊急入院となった.

【既往歴】

  • 妊娠高血圧症候群以外,特記事項なし

【服用中薬剤】

  • ニフェジピンCR 40mg 1日1回
【主な検査所見・バイタルサイン】

バイタルサイン

  • 血圧: 174/105 mmHg
  • 心拍数: 110 /分
  • 呼吸数: 22 /分
  • SpO2: 96% (room air)
  • 体温: 37.2℃

採血データなど

  • WBC 14,500 /μL, Hb 10.5 g/dL, Ht 30.2%, 血小板 55,000 /μL
  • T-Bil 4.8 mg/dL(間接ビリルビン 3.2 mg/dL)AST 1200 IU/L,ALT 950 IU/L, LDH 1500 IU/L
  • BUN 22 mg/dL,Cr 1.2 mg/dL
  • Na 138 mEq/L,K 4.0 mEq/L,Cl 102 mEq/L
  • PT-INR 1.3, APTT 42秒, フィブリノゲン 180 mg/dL, FDP 18 μg/mL, D-dimer 3.5 μg/mL
  • 尿検査:蛋白(3+),潜血(+)

画像所見

  • 胸部X線:明らかな異常所見なし
  • 心電図:洞性頻脈,その他に異常所見なし
  • 胎児超音波:推定体重2000g,羊水量正常,胎位は頭位

身体所見・診察所見など

  • 気道評価:Mallampati分類 Class II,開口制限なし,頸部伸展制限なし
  • 顔面・下肢に軽度浮腫あり
  • 右上腹部に圧痛あり
  • 神経学的所見:異常なし

【経過】

  • 患者は右上腹部痛,頭痛,悪心を訴えています.意識は清明.血液検査は前掲の通り.産科医による内診では子宮頸管1cm開大,児頭下降度-3.胎児心拍モニターでは基線細変動は保たれているが,一過性頻脈を時折認めています.
Q1. 症状と検査所見から何を疑いますか?その根拠とともに説明してください.
  • 妊娠高血圧の最重症型である,HELLP症候群を強く疑います。根拠は以下の通りです:
    • 妊娠高血圧症候群の既往があること
    • 右上腹部痛、悪心などの消化器症状があること
    • 検査所見で以下の3主徴を満たすこと
      • Hemolysis(溶血)
      • Elevated Liver enzymes(肝酵素上昇)
      • Low Platelets(血小板減少)
    • また,フィブリノゲン低下(180 mg/dL)やPT-INR延長(1.3)などの凝固障害も認められ,HELLP症候群に伴う播種性血管内凝固(DIC)の合併を示唆する所見も認めます.
Q2. 妊娠高血圧症候群患者の降圧目標と,適切な降圧薬について説明してください.
  • 過度な降圧を避け,通常であればやや高血圧と呼ばれる範囲に維持します.
  • 重症高血圧の場合は脳出血や子癇のリスク因子であるため,急激な降圧ではなく徐々に目標範囲内にコントロールします.
  • ニカルジピン持続静注,ヒドララジン静注,ラベタロール静注などが使用されます.
  • 急激な降圧は胎盤血流を減少させ胎児機能不全を引き起こす可能性があるため避けます.

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