症例設定
【患者】
- 72歳男性.165cm,62kg(BMI 22.8)
【現病歴】
- 定期検診の胸部X線で異常陰影を指摘され,精査の結果,右肺上葉肺癌(cT1cN0M0, Stage IA3)と診断.右肺上葉切除術が予定されている.
【既往歴】
- 特発性肺線維症(IPF):2年前に診断,現在ピルフェニドン内服中
- 高血圧症:10年前から加療中
- 2型糖尿病:5年前から加療中,HbA1c 6.4%
- 喫煙:30本/日×40年,2年前に禁煙
【内服薬】
- ピルフェニドン 600mg 1日3回
- アムロジピン 5mg 1日1回
- メトホルミン 500mg 1日2回(手術前日より中止)
【主な検査データ・バイタルサイン等】
バイタルサイン
- BP 138/82mmHg,HR 78/分,SpO2 94%(室内気),RR 16/分
身体所見:
- 呼吸音:両側下肺野にfine crackles聴取
- 心音:整,雑音なし
- 末梢:両側下腿に軽度の浮腫あり
検査データ:
- 血液検査: Hb 13.2g/dL,Plt 18.5万/μL,WBC 6200/μL
- 生化学: Alb 3.8g/dL,AST 28U/L,ALT 32U/L,BUN 18mg/dL,Cr 0.92mg/dL,eGFR 62mL/min/1.73m²,Na 139mEq/L,K 4.1mEq/L,Cl 104mEq/L
- 凝固: PT-INR 1.05,APTT 31秒
- 血液ガス(室内気): pH 7.42,PaO2 78mmHg,PaCO2 40mmHg,HCO3- 24mEq/L,BE 0.2mEq/L
肺機能検査:
- VC 2.30L(62%予測値)
- FEV1 1.85L(68%予測値)
- FEV1/FVC 80%
- DLco 55%予測値
- 6分間歩行試験:350m,最低SpO₂ 90%
心機能評価:
- 心電図:洞調律,左室肥大所見
- 心エコー:EF 62%,左室壁運動正常,軽度左室肥大,E/A 0.8
画像所見:
- 胸部CT:両側下肺野優位にすりガラス陰影と網状影,蜂巣肺所見.右上葉に2.5cm大の充実性結節.
- PET-CT:右上葉結節にSUVmax 4.8の集積,リンパ節転移や遠隔転移を示唆する異常集積なし
Q1. この患者の術前評価において特に重要なポイントは何ですか?重視すべき検査所見と,肺機能評価の解釈について説明してください.
- 肺機能検査:拘束性換気障害(VC 62%予測値)と拡散能低下(DLco 55%予測値)があり,術後予測肺機能の計算が必須です(術後予測FEV1が40%以下,予測DLcoが40%以下であれば高リスクとなります).
- 血液ガス分析:本症例ではPaO₂ 78mmHgと軽度低下がみられ,術後呼吸不全リスクの指標となります.
- 6分間歩行試験:歩行距離350mとやや低下,最低SpO₂が90%であり,肺切除後の酸素化障害のリスクを示唆します.
- 胸部CT所見:IPFの病期・範囲評価に加え,蜂巣肺の程度が重要です.
- 薬剤評価:ピルフェニドンは周術期継続が推奨されるが,術中の薬物相互作用に注意が必要です.
- IPFの急性増悪リスク評価:手術侵襲,人工呼吸管理,高濃度酸素投与がトリガーとなり得るため,事前に治療戦略を検討しておく必要があります.
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