症例設定
【患者】
- 58歳女性.158cm,65kg(BMI26.0)
【現病歴】
- 頭痛精査の頭部MRIで右中大脳動脈瘤(8mm)を偶然発見.神経学的所見は正常.手術適応と判断され,コイル塞栓術と開頭脳動脈瘤クリッピング術が検討されたが,患者希望もあり開頭術が予定された.
【既往歴】
- 高血圧(10年前から)
- 2型糖尿病(7年前から)
- 慢性腎臓病ステージG3a(eGFR 55 mL/min/1.73m²)
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI 22/時間)
- ヨード造影剤アレルギー(発疹)
- 喫煙歴:20本/日×30年
【内服薬】
- アムロジピン 5mg/日
- テルミサルタン 40mg/日
- メトホルミン 750mg/日
- ロスバスタチン 2.5mg/日
- CPAP療法(睡眠時)使用中
【主な検査所見・身体所見】
バイタルサイン:
- 血圧 148/92 mmHg,心拍数 78/分,SpO₂ 96%(室内気)
- 体温 36.4℃,呼吸数 16/分
血液検査:
- Hb 13.8 g/dL,Plt 23.5×10⁴/μL,WBC 6800/μL
- PT-INR 1.02,APTT 32秒
- Na 138 mEq/L,K 4.2 mEq/L,Cl 104 mEq/L
- BUN 22 mg/dL,Cr 1.06 mg/dL,eGFR 55 mL/min/1.73m²
- AST 32 IU/L,ALT 28 IU/L,LDH 210 IU/L
- HbA1c 7.2%,随時血糖 162 mg/dL
心電図:洞調律,左室肥大所見あり
胸部X線:CTR 54%,肺野清明
頭部画像所見:
- MRA:右中大脳動脈M1-M2分岐部に8mmの嚢状動脈瘤
- CT:軽度脳萎縮あり,白質変化(PVH Grade 1)
呼吸機能検査:
- VC 2.5L(%VC 85%),FEV₁ 2.0L(FEV₁% 78%)
Q1. この患者の麻酔管理上の主なリスク因子を挙げ,術前の対応について説明してください.
- 高血圧:130/80mmHg未満にコントロール(脳卒中予防)
- 血糖コントロール:140-180mg/dL(HbA1c 7.2%のため術前から調整)
- 腎機能障害:輸液調整,腎毒性薬剤の回避(eGFR 55)
- 心機能:左室肥大あり,必要に応じ心エコー.拡張機能評価.
- 睡眠時無呼吸症候群:周術期もCPAP継続
- 喫煙歴:禁煙指導 を行います.
Q2:脳動脈瘤クリッピング術の麻酔管理において,術中脳保護のために重要な生理学的パラメーターとその至適範囲,およびモニタリング方法について説明してください.
- 脳灌流圧(CPP):60〜80mmHgを目標とし,高血圧患者ではやや高めに設定します.CPPはMAP – ICP(または中心静脈圧の高い方)で計算されます.観血的動脈圧測定を行います.
- 二酸化炭素分圧(PaCO₂):PaCO₂ 35〜40mmHgの範囲を維持し(normocapnea),軽度過換気は避けます.ETCO₂と血液ガスで調節します.
- 体温管理:正常体温(36-37℃)を維持します.低体温は凝固障害や不整脈リスクを増加させ,高体温は脳代謝を亢進させるため避けるべきです.中枢温(食道温など)と末梢温の差にも注意を払います(術後シバリングのリスク因子).
- 血糖管理:140〜180mg/dLを目標とします.高血糖も低血糖も神経学的転帰の悪化に関連するため,定期的な血糖測定(1-2時間毎)を行い,高い場合にはインスリン使用します.
- 近赤外線分光法(NIRS)や脳波モニタリング:脳虚血のモニタリングのために有用.
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