症例設定
【患者】
- 生後3日,男児
- 在胎39週2日,出生児体重3,150g,現在体重2.950g
- 出生児Apgarスコア:8/9
【現病歴】
- 生後24時間で胆汁性嘔吐を呈し,腹部X線・超音波検査にて十二指腸閉鎖症と診断
- 高次医療施設に搬送され,精査でVSD(肺高血圧)を伴うダウン症と判明
- 経鼻胃管による減圧と静脈栄養管理中
- PGE₁ 5ng/kg/分(静脈内投与中)
【主な検査データ】
【バイタルサイン(手術前日)】
- 血圧:58/34 mmHg(平均動脈圧:42 mmHg)
- 心拍数:145回/分(整)
- 呼吸数:52回/分
- SpO₂:93%(室内気)
- 体温:36.8℃
【検査所見】
- Hb 16.5 g/dL,Ht 48%,WBC 12,500/μL,Plt 23.8万/μL
- AST 35 U/L,ALT 25 U/L,T-Bil 8.2 mg/dL,D-Bil 1.2 mg/dL
- BUN 18 mg/dL,Cr 0.6 mg/dL
- Na 138 mEq/L,K 4.8 mEq/L,Cl 102 mEq/L,Ca 8.9 mg/dL
- 血糖:78 mg/dL
- PT-INR 1.2,APTT 42秒
- 動脈血ガス分析(室内気):pH 7.33,PaO₂ 65 mmHg,PaCO₂ 42 mmHg,HCO₃⁻ 21.5 mEq/L,BE -3.5 mEq/L,Lac 2.2 mmol/L
【画像所見・心エコー】
- 胸部X線:CTR 62%,肺野透過性良好
- 腹部X線:double bubble sign,遠位ガス欠如
- 心電図:洞調律,右軸偏位,右室肥大
- 心エコー:VSD(約3mm,PH+),右房・右室拡大,動脈開存あり
【身体所見】
- 全身状態:啼泣力弱く,皮膚色不良,末梢冷感あり
- 頭頸部:前頭部平坦,眼間開離,小さな耳介,短頸(ダウン症の特徴)
- 胸部:胸骨左縁第3~4肋間で収縮期雑音(Levine III/VI程度),呼吸音清明
- 腹部:膨満著明,左上腹部膨隆,蠕動不良
- 四肢:筋緊張低下,猿線(単一手掌線)
- 神経学的:原始反射減弱,活動性低下
Q1. 新生児の呼吸・循環・体温調節機能の特徴と,それが麻酔管理に与える影響について説明してください.
呼吸
- 酸素消費量が成人の2~3倍と高いことから,無呼吸・低換気時に急速に低酸素血症に陥りやすい.
- FRC(機能的残気量)が小さく,クロージングキャパシティが相対的に大きい → 低酸素リスク大
- 気道径が狭く,分泌物や浮腫による閉塞リスクが高い
循環
- 心拍出量は心拍数依存性が強い(徐脈よくない)
- 心筋収縮予備能が低く,陰性変力薬に脆弱 → プロポフォールや吸入麻酔薬で血圧が急激に低下しやすい
- 肺血管抵抗の変動が大きく,低酸素やアシドーシス,手術ストレスで急激に肺高血圧が悪化する可能性
体温調節
- 体表面積/体重比が高く,熱喪失が大きい → 周術期の保温対策必須
- 褐色脂肪組織による産熱はあるが,新生児期では十分でない.ふるえ性熱産生も未熟 → 低体温に陥りやすい.低体温は肺血管抵抗上昇因子の1つ.
- 低体温は酸素消費量増大・肺高血圧増悪リスク
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