65歳の男性。身長165cm、体重70kg。糖尿病の既往がある。6か月前に右肺がんの手術を受け、化学療法中である。2か月前に、右項部(髪の毛の生え際)から右鎖骨領域にかけて痛みを伴う赤い集簇性の水疱が出現した。現在は、ぴりぴりした痛みがあり、シャツの襟が当たったときにぴりっとした強い痛みが走る。入浴で痛みが和らぐという。
0)この問題を解くために必要な知識
- 帯状疱疹後神経痛
- 皮膚分節
- 星状神経節ブロック
1)全身状態の評価について
①この患者の問題点を挙げてください.
- 肥満
- 糖尿病
- 化学療法中(易感染状態の可能性)
②現在の痛みの原因は何ですか?
- 帯状疱疹後神経痛
③この痛みのタイプ、皮膚分節における部位、痛みの特徴を挙げて下さい。
- 痛みのタイプ:アロディニア(異痛症)
- 皮膚分節:C4〜C5
- 痛みの特徴:非侵害刺激でも痛みを生じる.
2)星状神経節ブロックについて
①この患者に星状神経節ブロックを施行します.星状神経節はどこにありますか.
- C7横突起から第一肋骨頭の前方
②星状神経節ブロックの実施前の注意点と具体的なブロック方法について述べて下さい。
- 気道確保や循環管理ができる準備(道具,薬剤など)をしておきます.
- これはくも膜下や硬膜外への誤注入,動脈注射などの合併症により,呼吸停止や心停止,全身痙攣などが生じる可能性があるためです.
- 体位は仰臥位で施行します.C6横突起前結節を触れ,22G針を進めます(透視ガイド下や超音波ガイド下).造影剤を使用し,位置が適切かどうか確認することもあります.
- 血液,脳脊髄液,空気が吸引されないことを確認し,0.25%ブピバカインや0.5〜1%リドカイン5〜10mLを緩徐に注入します(局所麻酔薬の量が増えるにつれ合併症のリスクは上昇します.
- ブロック成功の徴候(Horner徴候や鼻閉など)が現れるのを観察します(10分程度で現れます).
- その後の合併症発症に備えます.
③星状神経節ブロック後の症状を列挙して下さい。
- Horner徴候(縮瞳,眼瞼下垂)⇒交感神経遮断
- 鼻閉,眼球結膜の充血,発汗の停止,
- 施行側の皮膚温上昇
- 嗄声などが生じます.
- 10分程度で上記の徴候が顯れ,4〜12時間程度持続する
④星状神経節ブロック後に予想される合併症を列挙して下さい。
- 頸動脈,椎骨動脈への局所麻酔注入による全身痙攣や心停止,
- 硬膜外やくも膜下腔への注入による低血圧や呼吸停止(全脊髄くも膜下麻酔)
- 反回神経ブロックによる嗄声,腕神経叢ブロックによる上肢の麻痺,横隔神経麻痺による呼吸困難などが有名です.
- その他に気胸・血胸・乳び胸,頸部や縦隔の血腫,食道・気管損傷,感染などがあります.
3)接遇問題
①ブロック後に気胸が判明したので、入院加療することになりました。この患者に付き添ってきた家族が、今回の入院の原因と治療方針の説明を希望しています。あなた(受験者)が患者さんの佐藤太郎さんの家族に説明することになりました。口頭試験官を家族とします。家族がすでに部屋で待っていて、その部屋に入っていくところから始まります。では、始めて下さい。
- 自己紹介
- 説明相手の確認
- 穿刺の針で誤って肺に傷をつけてしまい気胸が生じてしまったことを説明・謝罪.ごめんなさい.
- 合併症は0ではないことを(言い訳がましいけど)説明.ごめんなさい.
- 胸の横から管を入れて空気を抜く処置を行い様子を見ます(虚脱がわずかであれば経過観察でもよいかも)
- レントゲンで肺の膨らみを確認しつつ,時期を見て管を抜きます.
- 経過は追って説明していきます.
- 質問受付(何かききたいことや,わかりにくかったことはありませんか?)