看護師さんからの質問
看護師さんから「血圧の横にある()の中の数字は何ですか?」って質問されました.
新人看護師さんにたまに聞かれるね.平均血圧についてちゃんと答えてあげた?
もちのろんです!
絶対年齢詐称してるよね?
血圧は非常に身近なバイタルサインです.麻酔科専門医試験や周術期管理チーム認定試験でも問われることがあります.患者さんや看護師さんにもよく質問を受けるので,しっかりと理解しておきましょう.
平均血圧:Mean Blood Pressure(MBP)とは
こーゆーやつだね?
そうそう.収縮期血圧が114mmHg,拡張期血圧が61mmHg,平均血圧が77mmHgですね.これは誰の血圧ですか?
私の今日の血圧です
ストレスでもっと高いかと思ってました
ストレスの元凶に言われるとつらいね
平均血圧の意味
手術室で麻酔科医が「ミーン(英語で”平均”)は・・」と言っているを聞いたことがあるかもしれませんが,具体的にはどういうことでしょうか? 平均血圧普通の血圧(収縮期や拡張期血圧)とは何が違うのでしょう.
平均血圧(または平均動脈圧)は英語でMean Arterial Pressure(MAP)と言います.これは心臓が1回拍動(収縮と拡張)する間の,動脈の平均的な圧力のことです。簡単に言うと,血液が全身に巡るための実質的な圧力(真の血圧)と考えることができます.
収縮期血圧や拡張期血圧は瞬間的な最大・最小の値ですが,平均血圧はそれらを時間で平均した値で、臓器に血液を送り届ける力を表しています。
だから平均血圧をしっかり保ちなさい,というの臓器血流を維持しましょうということですね.
そういうこと!最近は平均血圧として65mmHg以上を保つように言われてるね.高齢の患者さんでは昇圧薬が必要になることも多いですね.また,慢性の高血圧がある患者さんではもっと高い血圧が必要になります.
先生の平均血圧は十分そうですね
まだ若いからね
収縮期・拡張期圧と平均血圧と私
収縮期圧と拡張期圧についてもおさらいしておきたいんですけど
自己紹介くらいしようか
3年目ナースのなっちゃんです.安直なネーミングですみません
自分で言ったから許す
収縮期血圧(SBP)は心臓が収縮したとき(心臓が血液を送り出すとき)に血管にかかる一番高い圧力,いわゆる「上の血圧」です.拡張期血圧(DBP)は心臓が拡張しているとき(心臓が休んで血液が満たされているとき)に保たれる一番低い圧力で,「下の血圧」と言われますね
平均血圧はその収縮期と拡張期の中間の値ということですか? 単純に(120と80の平均で)100mmHgくらいになるんでしょうか?
普通に平均って聞いたらそう思うよね.実はそうではなくて・・
心臓が拡張期にいる時間の方が長いため,平均血圧は単純平均よりも拡張期血圧に近い値になります.計算式としては,よく使われる近似式が 「MAP = 拡張期血圧 + (収縮期血圧 − 拡張期血圧)/ 3」 です.
別の形では 「(収縮期血圧 + 2 × 拡張期血圧) / 3」 と同じ意味です.こちらの形のほうが見たことがあるかもしれません.
この「3で割る」というのは,心臓が1回拍動する周期の中で、拡張期が収縮期のだいたい2倍の時間を占めることからきています(心周期の3分の2が拡張期だから).つまり拡張期血圧を2回分,収縮期血圧を1回分足して平均しているイメージですね.
なるほど、拡張期の方が長いから拡張期血圧が重視されるんですね。具体的に計算してみてもいいですか?さっきの先生の血圧をもとにすると,(114+71×2)÷3 だから・・だいたい78か・・
実際にはアルゴリズムをもとに測られるので誤差が生じるけど,だいたいそれくらいになっている事が多いはずです.
臓器の血流維持に直結
平均血圧と臓器血流についてもう一度お願いします!
OK.
平均血圧(MAP)は臓器に血液を送り込む(押し込むイメージかな)ために必要な圧力なので,臨床的にとても重要な値です.
臓器が正常に機能するには十分な血液量が必要で,そのためには一定以上の圧力,つまり最低限およそ60〜65 mmHgと言われています.一般的に正常なMAPはだいたい 70〜100 mmHg だから,麻酔中に低下するにしても,その程度は維持しなければいけないということですね.これを下回ると臓器への血流が不足し始める可能性があります.
臓器血流が不足すると具体的にはどうなるんですか?
脳だと脳虚血のリスク,腎臓だと乏尿や無尿,心臓だと心筋虚血が生じて,下手すると生命の危機に陥ることがあるね.まぁ短時間少々低下しても,すぐにどうこうなるというわけではないことが多いし,予備力という点では高齢者と若年者では違うので,一概には言えないけどね.
重症の敗血症性ショックや出血性ショックの患者さんで,術中全然血圧が上がらなくても,後遺症なくしっかり回復する場合もありますもんね.
急に立ち上がったときの立ちくらみも,実はこれですか?
そ,一時的に平均血圧が低下して脳が若干虚血状態になることで,めまいや立ちくらみが生じるね.立ち上がるときはゆっくりとね.特に高齢者は立ちくらみで倒れて骨折もしやすいからね!
平均血圧低下(ショック状態),その時に・・
血圧が下ったら
個人差はあれども,平均血圧が低下した状態が継続すると,上に挙げたような臓器障害が生じます.特に腎不全,脳虚血,心筋虚血は重篤になりやすいため注意が必要です.
出血したりしてショック状態になった患者さんは頻脈になったり,手足の末梢が冷たくなったりしますね.
よく見てるね.出血等で循環血液量が減少すると,心臓はなんとか血流(心拍出量)を維持しようとして,頻脈になるね.また,最重要臓器である脳や心臓に血液を維持しようとして,生命維持の優先度からは外れる皮膚の末梢血管は収縮して血流が減少してしますから,冷たくなるね.
下がったときには昇圧薬を使えばいいんですか?
それは原因によるね.ショックにも循環血液量減少性ショック(出血性ショック含)や心筋梗塞などの心原性ショック,肺塞栓などの閉塞性ショック,敗血症やアナフィラキシーなどによる血液分布異常性ショック(血管が拡張)など色々な原因があるから,それに応じた治療を行わないとより状態が悪化することがあるね.
- 循環血液量減少性ショック:原則として輸液や輸血が必須.同時に血管収縮薬を使用することが多い.
- 心原性ショック:心筋梗塞など原因に対する治療.対症的に冠血管拡張薬やカテコラミンなどの昇圧薬
- 閉塞性ショック:対症的な治療をしながら,血栓溶解や摘出治療.
- 敗血症やアナフィラキシーショック:原因治療を行いながら,ノルアドレナリンなど強力な血管収縮薬などを使用
血圧下ったらアラーム消してとりあえずエフェドリンやフェニレフリン打っとけばいいと思ってる人もいるからね.原因を考えずに対症療法だけするのは絶対NGだから.
え?そんな人がいるんですか?誰のことだろう.
・・・・
まとめ
とりあえず平均血圧は生命維持に必要な臓器への血流を表す数字だということはよくわかりました.
まずはそれでいいよ.なぜ平均血圧が下るとだめなのか.それは腎臓・肝臓・心臓・脳など重要臓器の血流が維持できなくなるから.血液からの酸素供給が低下すると.臓器機能の維持に支障が生じてしまう.
麻酔中は血圧下りやすいですからね〜
特に高齢者は高血圧をはじめ色々な合併症を持っているので,より気をつけないといけないです.適切な輸液・輸血,昇圧薬の使用が必要になります.
血圧や循環管理は奥が深いので,とても一度の説明ではカバーできないです.またいろいろと質問してください.
お願いします!
お願いします!
むしろ君が説明してあげろ
- 平均血圧は臓器血流の指標.
- 麻酔中はさまざまな理由で血圧が低下しやすい.
- 原因に応じた対処で平均血圧を保ち,臓器血流を維持する必要がある.
- 平均血圧は最低でも60〜65mmHg以上を維持しよう.
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